研究紹介

植物ゲノム研究

モデル植物だけでなく、実用植物についてもゲノム情報利用を前提にして研究を進めることが出来るようになってきました。これまでゲノム情報の利用はモデル植物に限定されていましたが、次世代シークエンサーが実用化され、研究目的に応じた多様な植物種のゲノム情報を取得し、効率的に実用技術開発のための研究が可能です。これまでに経験したことのない膨大な量のゲノム情報解析や、様々な植物資源の利用に向けて、新たな研究パラダイムの構築が必須です。

植物の潜在力

植物の物質生産力を分子レベルで解明し、未開拓の植物機能を発見し、有効利用することを目的にしています。この目的を達成するためには、植物ゲノムの研究が必要不可欠の要素です。植物は、いったん根を下ろしたら、その場所から移動できないという宿命を背負っています。地球に繁茂する植物は多種多様な化学物質を作り出す能力を進化させ、時々刻々と変化する自然環境下で生命活動を維持し、なんとか子孫を残すことに成功しているのです。植物が作り出す化学物質は、高温、低温、乾燥、塩害、強光、あるいは昆虫や病原体など、非生物的・生物的な環境ストレスに対応するための防御手段なのです。私たちは、遺伝子機能と細胞代謝機能の網羅的な解析を基盤としたメタボロミクス研究を軸にして、植物の物質生産力の増強を目指しています。メタボロミクス研究は、食品の安全性や品質評価、機能性評価を目指したテーマの基盤でもあります。

植物の成長制御

地球規模の課題を植物を使って解決するためには,その成長を制御する技術が必要です。実際,植物は刻一刻と変わり続ける環境に対応するために,様々な分子を用いて自身の成長を調節しています。さらに,周囲の生物の存在も,植物の生育に大きな影響を与えます。私たちは,植物とこれに共生・寄生する生物に注目し,その関係を分子レベルで理解することで,植物の成長を制御する新たなツールを開発することを目指しています。同様に,植物工場などの閉鎖系空間で,植物の成長や代謝を制御するため技術開発を行います。

研究テーマ

UV-LED による植物有用物質の増産

植物は,陸上生活に適応するために紫外線に対する耐性機構を獲得したと考えられています。その耐性機構の一つとして,紫外線を吸収する芳香族化合物の合成が挙げられます。植物の芳香族化合物は,その高い抗酸化作用などから人にとっても有用なものが多くあります。紫外線がどのように植物の芳香族化合物の合成を誘導しているかが明らかになれば,これを利用することで植物の有用な芳香族化合物の増産が可能になると考えられます。本研究では,企業との共同研究により UV-LED を用いて植物の紫外線応答の詳細を明らかにするとともに,得られた情報を植物による有用物質生産に役立てることを目指しています。

有用物質を高蓄積するスマートセルの開発

植物中には人の健康維持・増進に役立つ二次(特化)代謝産物が含まれています.また,多様な生物のゲノム情報を活用して,植物に有用物質を作らせることも可能になってきました.一方,植物は高い生理活性を持つような物質を特定の器官や細胞内のオルガネラに隔離することで,自分自身にその物質の影響が出ないようにしていることもわかってきました.本研究では,人為的に植物内で有用物質を高生産する場合には,その物質を貯蔵する場が必要と考え,ゲノム情報を駆使して有用物質の貯蔵に特化したスマートセルの開発を行います.

ユーグレナの脂質代謝研究

ユーグレナ(和名:ミドリムシ)は,運動性と光合成能を併せ持つユニークな生物として広く知られています.好気的な環境に置かれたユーグレナは,光合成によって合成した糖をパラミロンと呼ばれる多糖に変換し,細胞内に貯蔵することが知られています.一方,嫌気的な環境では,パラミロンを発酵代謝し,脂肪酸と脂肪アルコールのエステル(ワックスエステル)を細胞内に高蓄積することが知られています.本研究では,ユーグレナのワックスエステル生合成に関する新知見を得ることを目的としています.これまでに,ユーグレナ細胞内の多様な脂質分子を網羅的に測定するための分析系を整備してきました.現在,ユーグレナを様々な条件で培養し,それぞれの条件下での細胞内の脂質の種類や量を精査することで,ユーグレナのワックスエステル生合成に関わりの深い環境要因を明らかにしようとしています.

寄生雑草の制御技術の開発

幸いなことに国内では被害がないため,あまり知られていませんが, 根寄生雑草による農業への被害が甚大です。依然,飢餓問題が解消されていないアフリカで,特にその被害が大きく,人道的かつ経済的な見地からその早急な解決が求められています。根寄生雑草は,発芽の際に宿主植物からの発芽刺激物質を必要とするなど,寄生能に関連する特徴的な生育様式を持っています。本研究では,根寄生雑草に特有の生育様式を解明することで,根寄生雑草の生育を選択的に制御する手法を確立することを目指しています。また,寄生雑草の宿主とならない植物が,どのようにその侵入を防いでいるかを理解することで,宿主植物の根寄生雑草に対する抵抗力を強めたいと考えています。

卒業生の進路

大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 大阪大学大学院工学研究科 京都大学大学院医学研究科 奈良先端科学技術大学院情報科学研究科 警視庁科学捜査研究所 千葉県警察本部刑事部科学捜査研究所 全国農業協同組合連合会 城南学園高等学校 大塚化学(株) 北興化学工業(株) 藤本化学製品(株) 大日本住友製薬(株) アストラゼネカ(株) バイエル薬品(株) ファイザー(株) 万協製薬(株) 生晃栄養薬品(株) 大峰堂薬品工業(株) (株)CAC クロア シスメックス(株) 日本分光(株) プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(株) 花王(株) 東レ(株) 東洋紡(株) 不二製油(株) 三栄源エフ・エフ・アイ(株) (株)不二家 山崎製パン(株) DSP 五協フード&ケミカル(株) 味の素ヘルシーサプライ(株) アシードブリュー(株) (株)クラブコスメチックス (株)ナリス化粧品 (株)ナンバースリー ピアス(株) (株)ミリオナ化粧品 (株)電通デジタル (株)日立システムズ (株)阪急オアシス (株)西松屋チェーン (株)ユタックス 宮脇鋼管(株)